渡辺啓助の部屋
本館
拾之巻 神にも屈しなかった鴉のヴィセンテ
九之巻 ノアの方舟の水先案内
八之巻 死の画家が尊敬する相棒
七之巻 ミシュレが見かけた鴉教授
六之巻 倫敦塔に住む六羽の鴉
五之巻 日本にみる鴉信仰
四之巻 ゴッホの傑作「鴉の居る麦畑」
参之巻 黒の内部に秘められた美
弐之巻 アラン・ポーの長詩『大鴉』
壱之巻 誰でも一度は鴉だった
第一別館
拾五之巻 『楢山節考』の鴉の群れ
拾四之巻 名作『月山』の人間鴉
拾参之巻 鴉にだまされた美女
拾弐之巻 黒い妖精を拾った鴉
拾壱之巻 鴉の黒への偏愛

dare_p018  カラスは黒いから嫌いだ、というひとが非常に多い。しかし、仙崖禅師の『雪中烏』の画賛に、

しら鷺は有りやなしと見え分かぬ
雪にからすの色はゆるかな

  と歌っているくらいで、黒のよさなるものを充分認めているわけだ。
一般人の間にも黒好きがだんだん多くなりつつあることは認められるけれど、黒嫌いは数において圧倒的に多い。
なぜ黒が嫌いなのか?
黒は不吉な色だから、と至極簡単な答えが返ってくる。黒の嫌いな人には単純思考の人が多い。黒は葬式の色だ。腹黒いやつ、白黒を争う、ブラック・リスト――すべて悪いことは黒で片づけたがる傾向は、昔からずうっと続いていて今日でもあとを絶たない。しかし、それほど黒って悪い色なのであろうか。

きずがつくほどつめっておくれ、それを惚気のろけのタネにする
きずがつくほど抓ってみたが、色が黒くてわからない

dare_p020  この江戸時代末期から流行はやりだした都々逸の中にも黒がユーモアたっぷり唄われているが、しかし嫌悪感とはいいがたいほの暖かい親近感が底流となっていることは認めずにはいられない。
黒色に対する極めて単純な皮相な見方から黒い鴉を毛嫌いすることになったのであろうが、思うに黒ほど多種多様な美を内蔵する色はないのである。
黒の内部に秘められた美の質量はたいへんなものだ。
たとえば鴉の濡羽ぬれば色などといって、昔のひとだって、それなりにみとめていたではないか。じっと鴉をみていると、黒はあらゆる色彩の総和であることがおのずからわかる。世の中の多彩カラフルなものをすべてひっくるめて黒い色の中に呑みこんでしまって平然とそらとぼけているというのが鴉の実態ではなかろうか。
真っ黒でありながら、時には翡翠ひすい色に、あるいは虹色に、かと思うと、ちらっと玉虫色をきらめかせたりする瞬間があって、一筋なわでゆかない相手であることは重々心得ておかねばならない。
魔鳥でもあり、凶鳥でもあり、神の御使みつかいでもあり、霊鳥でもあり、鴉という平凡な鳥が所に応じてどんな役でも演出できるというのには、まったく度肝どぎもをぬかれてしまう。

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